辻田真輝強化部長インタビュー[4]チームが目指す姿とは【無料公開】
辻田真輝強化部長の新年インタビュー、その最後はチームが目指すものについて。昨年は「新生」というスローガンの下に戦った金沢だったが、クラブ、チーム、ファン、メディア等、誰もがそれぞれの「新生」像を描き、時に疑心暗鬼になった1年だった。そこで、あらためて辻田強化部長に目指すべきチームやクラブはどんなものなのか、どういう姿に生まれ変わろうとしているのかを聞いた。
(インタビューは昨年12月末に実施)
ーーチームが目指すものについてお聞きします。今年(2024年)は「新生」を掲げたシーズンでした。クラブだけでなくチームも変えようとしている姿も見えました。目指すべきチームの方向性、その理想をどう考えていますか。
「ひとつは勝つために監督、スタッフ、選手、全員が主体性をもってまとまること。そこを僕は大事にしていきたいなと思っています」
ーーどうしてその方向がチームにとっていいと考えていますか。
「僕の体感でもあります。クラブのなかでの距離感というんですかね。何のためにそれをしているのか、実際それはどうだったのかみたいな、一つひとつの捉え方。僕はツエーゲン金沢の最初の頃も知っているので、名前(ZweiとGehen)の『共に進む』ということも重要だと思っています。風通しもそうですし、誰が共になのか、どうやって進むのかとか。いままで関わってくれているみなさんにも本当に感謝していますけど、より強くなるために、よりクラブがよくなるためにどうしたほうがいいのか。そのために『共に進む』ということがもっと必要だなと感じていたし、そういうことができるようになってくれば、カテゴリー問わず魅力のあるクラブに近づいていくと思っています。そう信じています」
ーーいいチームやいいクラブ、魅力あるクラブや魅力あるチームとは、辻田さんにとってはどういうものなんでしょうか。
「強いからサポーターや街が応援する。そういうクラブもあるとは思うんですけど、逆に試合があるたびに盛り上がりを見せる街には強いクラブがある、というところもあります。それが僕のなかでは大事。ツエーゲン金沢を応援していることが、関わっているみなさんの人生を豊かにすることができるんじゃないかと思っています。だからこそ、ピッチのなかで選手やスタッフは戦わなければいけない。最後まで走り切るとか、戦い切るとか、そういう姿を(観客は)結果を問わず見たいと思っているはずです。クラブのスタッフも本当にこうしたほうがいいのかとか、どういうことが求められているのか、喜ばれるのかということを追求していくことが愛されるクラブに近づくヒントなのかなと個人的には思っています」
ーー走り切る、戦い切るという点では、今年のチームをどう評価しますか。
「評価……そうですね、難しいのは全員が、ということではないということです。それぞれでばらつきがあったという印象です。チームとして、すべての試合において(できたか)、ということでいえばノーですね」
ーー外からの見え方と、中でサッカーをやっている人たちの見え方は絶対に違うところがあるはずで、勝ったから、負けたからだけじゃなく、それ以外で評価できる試合というのもやっぱりあったと思います。
「今年はひとつの試合においての準備から試合、結果までを考えると、本当に理想通りだったというものは少ないんじゃないかと思います。監督もスタッフ、選手もそう感じていると思います。勝った試合であっても。ただ、内容というよりは結果がどうだったのかということが一番だとは思っています」
ーー魅力あるチームになるために、GMや強化部が求めるサッカーのスタイルというのはあるんですか? それともスタイルはあまり関係ないですか?
「僕は戦術は手段だと思っています。やっぱり大前提は勝てるのか、勝ちにいくためのサッカーなのかということ。それは大事だと思っています。速いサッカーであっても、ゆっくりしたサッカーであっても、パスサッカーであってもフィジカルサッカーでも構わない。でも、勝つためのサッカーなのかとか、応援したいと思ってもらえるサッカーなのかということは、切り離せいない。興行なので自己満足では絶対に片付けられない。
求めるサッカーと言われると難しいですけど、単純に、初めてツエーゲン金沢の試合を観た方々が年齢を問わず『また来たい』と思わせられるかというのはすごくわかりやすいけれど、とても大きくて難しいポイントだと思っています。負けたけど『また来たい』と思える試合もあるでしょうし、勝ったけど『もういいかな』と思う試合もあると思うんです。今年は僕もこの仕事をしたからチャントをたくさんおぼえたんですけど、本当に残り何分かからのスタジアムつくっていく空気感というか、サポーターの方々のチャントや手拍子はすごく力になるなというのは感じています。いままで以上の力を選手たちに与えてくれています。だから本当に『また来たい』と思ってくれたり、もっと周りの人を『一回観てくれ』って誘いたくなるようなサッカーを求めたいです。それが願望です。夢です」
ーーそれに向けてチームを編成しているということですよね。
「本当にそうですね。そして(Jリーグが)60チームあるので、これからどんどん差がついていくなとは感じています」
ーーJリーグはこれから一層厳しくなっていくことが予想されます。そのなかで地方の、金沢というチームが生き残るためにどうすればいいのか。それを考えるのは強化部ではないかもしれないですけど、強化の仕事をしているなかで、未来を見据えたうえで「こうしていかなきゃいけない」ということはありますか。
「さっきも言いましたけど、試合の結果以上のものを、エンターテインメントとしてどれだけ提供できるのか。そういった意味でイベントも含めてすごく重要になってくると思います。いまの僕ら、J3という立場で言えば、どういうふうに人を巻き込んでいけるか。そこがすごく重要になってきます。どうしても資金のところが関わってきますので。体力的にもクラブを強くしていくこと、それをクラブ側の人間も含めてもっと考えていかないといけないんじゃないかと思っています。クラブとしてのブランディングといったところは、これからより重要になってくる。強化の立場で言えば勝負の部分は本当にいろんな要素があるので約束はできませんが、『また来たい』とか『元気になれた』と思ってもらえるところは重要で、それが集客に反映されると思っています」
ーー今年は強化部にも厳しい目が向けられた1年でした。選手とサポーターの関係においてもいままでこのクラブでは見たことがない光景もありました。一緒に戦うサポーターにはどういう思いをもっていますか。
「大前提として、本当に感謝が一番です。今年に関しては、内容問わず快勝した試合は本当に少ないと思っていて、ほとんどが苦しい勝ちだと思っています。その勝ちをもってきてくれたのはサポーターやスタジアムに来てくれている方々の力だと思っています。あとはやはり結果が結果だったので、いままでになかったこともたくさん起きたと思います。最終戦でもいろいろな思い、いろいろな考えがあって、ああいうダンマクやメッセージが出たんだと思います。僕自身、あれがファンとかサポーターの方々の総意だとは思っていませんが、ああいう言葉を出すこと、ブーイングするタイミング、文言に関しては、どうかなという思いもありました。それはうちだけじゃなく、Jリーグのこれからの課題だと思っています。
ツエーゲン金沢に限って言えば、どういうサポーターでありたいと思っているのか、それを考えるきっかけになった1年なんじゃないかと思っています。ブーイングをしないでくれということではありません。でも、いまは(新しいスタジアムになって)ホームゲームが終わったあと、あの距離までいきます。いろいろな言葉が飛び交うとは思っていますけど、選手からの目線でいうと、すごく上から見られていて、選手からはみなさんが思っている以上に一人ひとりの顔が見えます。言っている言葉も聞こえます。そのなかで、試合が終わってすぐに、選手や監督にかける言葉としてはどうなのかなと思うところもあります。サポーター軽視という言葉もあったと思うんですけど、そんなことは全くないですし、話をする場、話をするタイミングは設けたうえでやればいいのかなと思います。さっきもちょっと話をしましたけど、いろいろな人たちがスタジアムに来ています。初めて来ている方々、子どもとかお年寄りもいるなかで、どういうサポーターになっていきたいのか。僕らがクラブとして『共に進む』と謳っている以上は、やはりあくまでも『共に』という意識をもって進んでいきたいなと思っています」