【赤鯱短信】「自信がない」と苦笑いするU-18のエース。だからこそ刺激される大西利都のポテンシャル。
今年のU-18のエースは前向きに弱気な言葉を並べた。「今ちょっと自信を失ってます」。笑ってはいるが、表情は真剣だ。深刻ではないからこうして話題にもできるが、それにしたっていやに連呼する。昨季プレミアリーグWEST14得点のストライカーは1年ごとに大きな成長を遂げ、今季はトップチームに2種登録されるまでに至った。やれる自信はある。でも通用しない部分も様々自覚している。プロのトップレベルを肌で感じたからこそ、嘘のつけない場に身を置いたからこそ、この高校生は謙虚に自分を見つめ直し、再出発を図る。約1ヵ月間の負傷離脱から戻ってきた大西利都は、内なる悩みをどう言葉にしようか考えこみながら、語る。
「今年最初の沖縄キャンプですごく良い刺激もらってから、自分でもどうしたら追いつけるかだったりを考えて、練習の自主練の内容だったりも変わってきました。そういう部分ではいい意味で…、いい意味だと思うんですけど、すごく自信をなくしたっていうか。そっちの感じでいい刺激になりましたね。ちょっと今、自分でもトップチームのキャンプに行ってから相当自信をなくしていて。どうしようか迷っている時期というところもあったりします。もちろんトップを目指していないわけではないですけど、キャンプに行って感じたのは、ここからどういう進路を選んでいくのか。大学を経由してからでもありなのかなっていうのは最近思うことです」
昨年のクラブユース選手権の際には「毎試合得点目指します」と言ってほぼ公約を達成。プレミアリーグでもハーフラインからの独走ゴールを決めるなど14得点をマークした点取り屋の発言とは思えない、控えめな発想だった。彼の言葉にあった「自主練の内容も変わった」とはたとえばフリックの技術練習で、「キャンプで見た和泉選手やユンカー選手のフリックが全然違ったので。1回も練習したことなかったので、取り組むようになりました」と大西。典型的なポストプレーヤーではないが、DFを背負うことも少なくはなく、前線で収める部分はU-18の三木隆司監督からも課題として突き付けられている部分もある。トップクラスに触れたことはそうしたモチベーションを刺激してくれた部分も少なくないが、受けた衝撃の方が大きければメンタルを揺さぶられるのはこの世代はまだまだあること。「フィジカルの部分はそこまで苦労しなかったんですけど、技術と判断の部分のレベルが違った。もちろんトップチームのレベルが高いんですけど、自分も低すぎて、このままだったら埋もれちゃう」とは、なるほど自信がないと連呼するわけである。
ただ、落ち込んでいるというわけでもない。U-18のエースとしての自覚は十分で、選手全員で決めた今季の目標に対する意欲は誰よりも大きい。「自分は性格上、あまり声で引っ張って、リーダーシップとって、というタイプではない」という自己分析から導き出されるのは、課された役割でもってチームを導くことだ。大西はFWである。やるべきことと言えば、ひとつしかない。
「やっぱりプレーで得点を取って、チームを引っ張る。というところでは、昨シーズンよりも多く点は取らなきゃいけないと思います。3年生になったからにはその責任も伴ってくるので。去年は(杉浦)駿吾くん、(西森)悠斗くんとかに任せていた分、今年は自分が背負っていかなきゃいけないなって、その責任はあると思ってやっています。去年の得点を振り返るとほとんどがクロスからだったりで、あんまり個人で打開してっていう得点は多くはなかったので、今シーズンは自分の個の力でこじ開けてっていうような点の取り方は増やしていかなきゃいけないなと思います。アピールのためにも」
アピールとは自らの進路を切り拓くためにも、という意味である。トップチーム昇格もそうだが、今は大学でスケールアップして戻ってくる道も日常化してきた。選手によってはその方がより良いキャリアを送れる可能性もあり、大西自身もその選択肢を前向きに考えるところはあるという。現時点で感じたプロとの差を、大学で縮めてから勝負をする。すべてはここからの彼のプレー次第、経験次第ではあるが、可能性を大きく広げて構えておくのは若さゆえの利点だ。身近には加藤玄をはじめ先駆者たちもいる。そういえば東京V戦でリーグ戦とプロデビューを同時に果たした杉浦についての感想はと言えば、「すごいっす…。『マジか、マジか』と思って。すごいなと思いました。ほんとにすごいっす」と語彙がどこかへ旅立っていた。何がすごかった、どこが良かった、という感想すらなく、あるのは自分との対比のみ。「駿吾くんがやれたから自分でもやれるっていうわけではないです。あのレベルでやれてるんだっていうことに対して、すごいなって思います」と、「すごい」以外の感想がないくらいにプロの舞台へのある種の恐怖心が今の大西の中では大きい。
だからこそ、今はU-18での自分に集中できるところもある。すべては延長線上にあるもので、自信というのは上がりやすく冷めやすい。国立競技場での「NEW GENERATIONS MATCH」では得点も決めたが、「あの週ぐらいはめっちゃ自信持ってましたけど」とその後の負傷離脱などで一旦リセットされている。復帰戦となった中京大との練習試合でも持ち味は見せたが得点はなく、ゲーム勘や体力のなさの方が気になった。それでもプレミアリーグ開幕に間に合ったこと、その前週に行われる船橋招待というひとつの試金石となる大会に間に合ったことは本人にとってもポジティブで、すべきことが明確にできる今は大西という選手のひとつターニングポイントにもなるかもしれない。
「自分としては“今までに戻す”じゃなくて、これからもっと上げていかなきゃいけないですし、船橋招待もすごく自分にとって大事な大会です。今はもうプレミアに焦点を合わせるのではなくて、目の前の1試合、1試合にしっかり焦点を合わせて頑張っていきたいなって思います。自分はただ点取るだけです。“だけ”っていうか、自分は点を取ってチームを勝たせることに尽きるというか。自分はそこで一番仕事をしなきゃダメなポジションですし、自分の特徴である前線からのプレスっていうのもひとつ絶対やらなきゃいけないことだと思いますけど、自分はまず点を取ることだけを意識してやっていきたいなって思います。そうやっていって、プレミアで今年は15点はいきたいっすね。14点もめっちゃ大変だったというか、めっちゃ自分でもすごい数字と思っているんですけど(笑)。まずは15点。そこから超えていければと思っています」
心配はいらない。迷いや悩みはこの世代には当たり前のことで、大西は自分を見失っているわけではないからだ。周囲には多くの助言をくれるスタッフや仲間がおり、良い意味での“お調子者”な性格も彼の取り組みを明るく照らしてくれるだろう。沖縄で見たコントロール系のシュート練習は見事で、「去年からもあの角度は上手い自信はあるんです」と彼は笑う。「でも試合になると全然シチュエーション違うから全然打てない。あれを試合で打てるか打てないかでも変わってくるなので、打てるようにしたいんです」と貪欲さを見せるから、FKっぽい蹴り方でもあるねと言えば、「密かに狙ってます(キリッ)」と明らかな嘘をつき、おどける。本当に自信のない人はこうはならない。だからこそここからの大西の成長と選択には、いろいろな期待をもって見守っていきたいものである。