【赤鯱短信】鍛錬の日々と栄冠の光景を刻み付けた1年間。ピサノアレクサンドレ幸冬堀尾が思う、自分の現在地。
悩むのは若者の特権である。悩みはいつでも人間につきものだが、悩んで答えを出す時間は若者の方が多い。悩んでいられる時間の余裕ももちろんそうだ。アスリートにとってその答えが出るのはやはり本番の舞台でしかなく、練習でどれだけ自分が良いものを出せても、それを“公”の場で披露できなくてはプロとは言えない。「練習でできないことは本番でもできない」とされる一方、「本番に強い」選手もいるこの世界、それを最近は“持っている”という言葉で表現することも増えてきた。努力や飢え、運や気迫。複数の要素が絡み合って初めて成功への扉は開かれる。
その点でとても難しい世界観の中に身を置くのが、ゴールキーパーだ。11人のスタメンの中でひとつしかないポジションで、通常3~4人の在籍選手がその1枠を争う。名古屋においてはこれが30年近くふたりのキーパーによって占められてきたというのは改めてとんでもないことで、そこに挑みかかってきた何人ものGKたちにはとにかく敬意しか抱かない。ある意味では争いに負け続ける日々の中で粛々と自分を高め続け、その時を待つ作業は傍目には苦行にも見える。プロになるまでは、名古屋に来るまでは彼らはその場所のナンバーワンだったはずだ。後塵を拝するだけでも辛いのに、待ち続けるのは努力の意味すら考えるだろう。
前置きが長くなったが、そうした立場の中で「プラスアルファ」を探し求める段階に入ったのが、ピサノアレクサンドレ幸冬堀尾だ。長らく試合前日の練習冒頭公開が続いてきた中では、なかなか日々の努力を目の当たりにする機会はなく、彼の1年の歩みを定点的に見つめることはできずにいた。ゆっくり話をする機会もなかなか無かったが、16日のサッカー教室のあとにようやくその場を得ることができた。開口一番、「難しいっすね…」と眉間にしわを寄せた19歳はいつものように頭の中で言葉を探し、反芻するようにしてゆっくりと話し始める。手応えと、それを確かめようのない現状に表現はやや、いやかなり抽象的にならざるを得ない。
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