【赤鯱短信】充実の杉浦駿吾。U-18のエースが感じる成長と進化、そしてラストスパートへの熱い想い。
充実、しかしまだまだ若さを感じさせるところに伸びしろが見える。来季のトップチーム昇格を控える名古屋ユースの背番号10は現在プレミアリーグWESTで得点ランク3位の13得点を挙げ、チームの上位躍進の原動力としての存在感を大きくするばかり。今年はトップチームでの練習機会も増え、上のレベルでの経験値を仲間たちに還元しながら、自らも成長することで文字通りの牽引車としてU-18の顔となってきた。1年生の頃から注目を浴びてきた年代別日本代表の常連だが、プレースタイルやプレーの質はあの頃とは段違い。最高学年としての自覚もたっぷりに歩み、迎える世代のクライマックスにその表情は引き締まっていた。
中断していたプレミアリーグWESTが17日に行われる延期分の岡山U-18とのアウェイゲームから再開する。ここから週に1回のペースでリーグ戦は消化され、12月8日の最終節まで一気にスケジュールは進んでいく。ここ3週間というもの、名古屋U-18は週末にクラブユースや大学生との練習試合を精力的にこなし、10日には京都U-18を迎えてのトレーニングマッチを行なっていた。結果は既報の通りだが、その中でやはりワンランク上のクオリティを見せたのが杉浦駿吾で、自身の2得点もさることながら、最前線からチームを鼓舞し、指示を飛ばしてより良い試合環境の構築に尽力していた姿にも彼の成長を感じたものだ。強いポゼッション志向をもつ相手に対し、自分も含めたプレッシングの連動感を出すため、細かく周囲を動かす様は司令塔さながら。
ただ、本人にしてみればそれは試合中に当然やることにすぎず、コーチングの多くは別の意図が込められていた部分があったと返答する。「普段プレミアであんまり出ていない選手が今日はピッチに立っていたので」。U-17日本代表のクロアチア遠征によって、9日から20日まで不在の主力の2年生3名に代わり、岡山戦のポジション争いの枠は普段よりも拡大されていた。神田龍はともかく、小室秀太や加藤直太郎は経験も浅く、「自分のような普段出ている選手が励ますというか、ポジティブな声かけをしないといけない」と自覚して臨んだ一戦で、加藤は開始早々のピンチとなったPKを止め、小室も粘り強く3バック中央で奮闘。その中で先制点を奪っての攻勢に持ち込んだ展開に、「そういうところからチームが良くなっていったのは良かった」と杉浦は相好を崩す。
鮮烈かつ豪快で、京都の勢いを削いだミドルシュートも見事だった。思えば今季の杉浦はシャドーというポジションもあってゴールから中距離の位置でのプレーが多く、その分だけアシストやチャンスメイクの仕事の割合が増えていたところもあったわけだが、その位置から強烈に叩き込むシュートの印象も強い。この日も前からのプレッシングがはまりだした23分に、相手がたまらずパスミスをしたところを見逃さずにゴールを一瞥。バイタルエリアから右足を振り抜くと、ガシン!とゴールが揺らぐ音がするぐらいの強力な一発を仕留めた。激励に訪れた野村勇仁らの顔は驚きの表情でいっぱいで、桁違いの一撃にピッチ内外がどよめいた。
「ミドルシュートだけをたくさん練習してるわけじゃないですけど、いろいろなシチュエーションのシュート練習をしていて、そのシチュエーションの中には、ああいうシュートもあるので。そこは練習の成果が、100%出たとは思わないですけど、少しは出たのかなって思います」
謙遜というよりは、まだ満足できていないといった様子だった。トップ昇格が決まったこともあり、杉浦の基準はプロの中でどれだけやれるか、というところに引き上げられているのは間違いない。だからといって彼のすべてのプレーが相手を凌駕しているわけではないが、こうした勝負どころの場面でのクオリティがしっかり結果や数字に出ているからこその、プレミアリーグ得点ランク3位という成績である。ミドルだけでなく、1点目のキーパーをかわしての得点も、かわした後のボールの位置はかなり厳しく、しかしきっちり流し込んでみせたところに質がある。杉浦の現在のテーマは自分がいかに得点できるシチュエーションに持ち込めるか否か。その考察自体がレベルアップに欠かせない糧となっているところに、他を圧倒する理由がある。
「今年の最初に比べれば、本当に質もスピード感も、どれをとっても上がってると思うので、そこは自信になっているんです。でもトップチームの選手と比べた時にはまだまだ足りないので、もっと練習で積み重ねていくしかないと思います。プロはディフェンスが上手いし、夏休みにトップチームの練習に参加させてもらって、シュート練習でもある程度自分に時間があれば全然決められる感覚はあるので、ディフェンスのレベルが上がった相手の前で、自分が何をして、その決められるシチュエーションまで持っていくのかが課題と感じました」
アタッカーである以上、来年からのプレーには絶対的にゴールが求められるから必死である。プレミアリーグでは身体能力だけでも相手を上回ることができていた部分があっただろうが、今後は自分がフィジカルベースでは最低限と思っていた方がいい。得点パターンは今のままでは限られ、明らかにチャンス総数も減る中で決定力の向上だけに突破口を見るのはリスクも高い。突き詰めることも重要だが、自分の幅を拡げることもまた大切で、杉浦の目は既にその部分にも向けられているようだ。ミドルシュートもその一環、しかしまだまだやるべきことはある。
「ミドルシュートは自分にひとつ増えたオプションで、課題はクロスに対してゴール前に入っていって、頭で合わせる、ワンタッチで合わせるっていうところです。そこはもっと見つめていかなきゃいけない。今はそこに入っていってない分、逆にミドルシュートを打つ機会が増えているので、ミドルが決められれば相手は出てくるし、その出てきたところをひっくり返してクロスに入るとか、いろいろできるようになると思う。今はミドルがある程度形になってきた中で、次はクロスを頭で叩くとか、合わせるっていうのが、自分に必要なオプションになっていくのかなと思います。あんまり意識してなかったところではあるんですけど、ヘディングシュートは課題だなとは思っていたので、もっともっとそこはレベルを上げる必要があるなって思っています」
杉浦にはもうひとつ課題がある。メンタルコントロールである。以前にもプレミアリーグの試合で相手のハードマークに苛立ち、つかみかかる寸前まで行ったことがあった。試合前半のことである。京都との練習試合でも自分だけでなく決定機がなかなか得点に結びつかない中で、「後半だけで何点目だよ」と思わずぼやいてしまう場面があった。仲間への厳しい要求は悪くはないが、苛立ちをぶつけてしまうのは良くない。そのことを訊くと杉浦はしっかり自覚もできているようで、やや居心地悪そうに、しかし決して逃げずに心境を語るのだった。
「良い時は自分の中でも、自分が好きなように、チームのために動くことも含めてそのままその流れに任せてやれていいんですが、悪い時はやっぱり練習ではできてるのにできないとか、自分のところが空いてるのにパスが出てこないとか思ってしまう。自分にベクトルを常に向けるようにはしているんですけど、やっぱりボールが出てこないとなると、味方にベクトルが向いちゃう時もあるので。『練習ではできてんだから、試合でもできるでしょ?』っていう感情が少し、苛立ちとして出てしまうっていうのはありますね」
エースとして、主力として、3年生として仲間を想う気持ちは前述の通り、しかしアタッカーという性格上、熱くなりすぎてしまう部分はあって当然、なければ困るところもある。重要なのは感情をコントロールし、自分をマネジメントすることだ。プロのDFたちはそういった心の動きも見逃さず、アドバンテージに変えて主導権を握ってくるからなおさら。「学年が上がったからというのもあると思うけど、やれるプレーの幅は確実に広がった」と感じる自らのスケールアップに付け加えて、ちょっとやそっとでは揺るがないメンタリティをもって試合を戦う姿勢を身に着けたい。
課題とはどうしても悪目立ちしてしまうものだが、杉浦の進化の過程は改めて見ても面白く、1年生の頃のスピード自慢が小さく見えるほどに、今は総合的な成長ぶりに気が付かされる。U-18がトップチームと同じシステムで戦う今季は上でのプレーも具体的にイメージしながら過ごすこともでき、手応えも課題にも具体性が備わっているのが素晴らしいところ。ここからの終盤戦も、来年の勝負どころも、両にらみで取り組める今は杉浦をより意欲的にも変えていく。
「FWなら相手の背後を取る回数は増えるし、シャドーをやっていればボランチの背中とセンターバックの前のライン間のところで受ける機会が多くなる。それぞれでの得点パターンは自分の中でイメージはできているので、FWならFWでのイメージを体現して、シャドーだったらシャドーでのイメージを体現してという感じで、ポジションにはうまくフィットできていると思います。逆にシャドーをやっている時にFWの動きができればもっと良くなるし、FWの時に味方の動きを見ながらシャドーみたいな動きができれば、もっともっと良くなると思う。三木さんはプレーの連続性の部分もほんとに細かくミーティングで提示してくれますし、(西森)悠斗や(西森)脩斗に比べたら自分は全然そういうのが足りない。“連続性”は今、自分の中では一番の課題です。でも1年生の頃に比べれば確実にレベルアップはしてるんで、あまり課題視しすぎずに、もっともっと伸ばしていければなって思います」
必要以上に自分を大きく見せず、しかし堂々としてこのチームを代表する気概にあふれている。残り1ヵ月となったアカデミー生活にも触れ、「少しでも勝つことでクラブに恩返ししたいし、サポーターの方々へ恩返しがしたい」と語った。比べてはいけないが、確かに杉浦はゴールの喜びを真っ先にサポーターへと向けて爆発させる選手のひとりで、試合中ですらコミュニケーションを取りに行くほど、彼らを大切な仲間として意識している印象がある。もちろん仲間といえば「1位はなくなってしまったけど、ヴィッセルを抜けば後輩たちにも実績が残る」と、過去の3年生たちと同じように「後輩のために」という台詞も口にしている。まだ1ヵ月、されど1ヵ月しかないラストスパートの中で、杉浦駿吾がどんな活躍をアカデミーの記憶に刻むか、注目だ。