【赤鯱短信】注目すべき名古屋ユースの“再起動”と、それを見守る指揮官の厳しくも優しい眼。
先週のプレミアリーグWESTの大津戦は厳しい敗戦であったことはお伝えした通りだが、試合後、表情の暗い選手たちに比べて平常心というか、“ここからが育成”とでも言わんばかりの顔をしていたのが三木隆司監督だった。タイミングが合ったので試合のことについて訊くと、こちらの意図がことごとく外れていくからあれっ?となり、そして思い出した。三木監督はアカデミーの指導者で、U-18の選手の未来を拡げる役職である。試合のことを聞けばフラットに、生まれた内容についての感想が、シビアに親身にあふれ出す。以前に話を聞いた時にも「勝利は大前提、でもそれだけではない」という指導方針については触れていたはずが、逆転でのリーグ優勝に燃える選手たちの意気込みに当てられてか、自分が残念な結果に基づく試合評としての質問をしていることに気づく。だから三木監督の言葉はとても爽快にも響き、そして彼らがどれだけ意識の高い取り組みを普段からしているかということにも気づかされるのだ。
「まあ、前半がどうだったと考えてみても、結果、後半にああやってパワーで持っていかれている、セカンドボールも拾われる、1対1のところでボールが取れない。そういうところがもう後半には出ている。そこは本当に一人ひとりのところで、別に下がってしまえば守れたかもしれない、スペース消しちゃえば入ってこないから。でも、そんなことしても、ウチの後ろの選手のためにならない。ただ、もうちょっと連続で守備も攻撃もできるようにしないと。後半は間延びにしてたから懐にボールを入れられているんで、そこはもうひとつ前に上げないといけない。そのコントロールだったり、タイミングだったりがまだわかってないというか、それがどれだけ大事なことなのかっていうところがまだわかっていないんですよね」
勝負にこだわる部分はマストで備える一方で、どう勝負にこだわるかにはレベルアップやクオリティを意識したプレーが必ず付属していなければならない。育成の上に勝利を重ねる考え方は、理想論であり時に矛盾をはらむ場合もある、難易度高めのミッション設定である。自分たちの強みを出すために何をすべきだったか、相手に対抗するためにはどんな判断が必要だったか。何が良い、悪い、ではなく「何が判断できていたか、できていなかった」という明確な基準にのっとって話す三木監督の見ている選手とチームの理想像に共感するところは多い。たとえば、大津戦ではサイドがあまりうまく使えていない印象もあったが、三木監督はやんわりと否定する。
「ゴール方向を目指すのは当然で、そういう時に相手を見て判断できていないということ。それが効果的なのかどうかっていうところが判断できてなかったっていうことです。たとえば外から攻めろ、なんてことを僕は一言も言ってない。でもどこが空いてるのかっていうのは自分で判断すること。そのためのポジションをみんながとって、そこからどう判断するのかは個人で判断すること。中のエリアにパスを通しきるだけの技術を高めれば、もっと外が効果的になると思います。外に行った方が効果的と思うかどうかは各選手の判断で、もちろんチームとしてどこを目指すべきなのかっていうところがあった上での判断なので。そういう風に見えていたという部分と、じゃあ選手がどうだったのかっていうところは別問題なのでね。そこでミスになっているならば、その判断が良かったのかどうかっていうところを自分で振り返るんです。そこで取られるってことは、相手との距離が遠いから。じゃあもっと近くしとけばたぶん通ると思う。じゃあ事前の準備がどうだったのか…というところだと思う。ミスしたことがどうとかじゃなく」
準備の段階、そして試合中のピッチ脇からも指示は出す。しかしやるのは選手で、自分で気づいて自分で考えられなくては、彼らが望むカテゴリーには至らない。自らがプロとして叩き上げのキャリアを築いてきたからこそ、三木監督が求めるクオリティは非常に高く難しい。一方でこの試合ではボランチの八色真人が「完全につなげるプレーよりも、ちょっと難しいプレーにして、自分たちの勢いに持ってこようと意識した」と語るなど、選手が応え始めているなとも感じた。すべてのプレーや判断は勝つために選ぶもので、その選択が間違っていたかどうかは結果次第。10人中9人が間違っていると思うプレーでも、得点できればそれはひとつの正解だ。重要なのは勝つための判断を選び、実際のパフォーマンスや状況の優劣にそれを接続させていくこと。プレーも試合も結果は出るので、答え合わせの中から成長素材を獲得し、よりよい選手とチームになっていく。誰もが“大一番”と位置付け、その視点で見ていた戦いのとらえ方は、立場によっても大きく異なるのだと思うと勉強になる。
「勝敗の部分は100%そっちに振っているわけじゃないので。もちろん、100%勝ちに行くっていうことを選手には伝えていますし、その中でのことではありますけど。でも、こういうゲームで判断を変えるっていうのは、前半にはできていたけど後半にはできていなかった。ということは、相手を見れてなかったということで、相手に変化を起こせてないということ。と、いうのが自分たちが反省しなきゃいけないところです。縦パスにしても、受け手も相手が狙っているところなんだから、その狙いを外す、そのための前段階をどう考えていたのか。そうやって相手にわざわざ閉めさせればいい。そうすると外が効果的になるし、外を見て中に入れりゃあいい、っていうところは個人のところの質もそうだし、それこそ止めて・蹴るの速さを上げていかないといけない。“上”に行った時には、外だけの攻撃なんて何も怖くない。だからそこは中と外を選べる、自ら相手を変化させて選べるようにしないと意味がないと思うんです」
ミスもあったが責めはしない。繰り返せば起用法の部分に影響はもちろんあろうが、大切なのはそれを糧に成長してくれるかどうかのみ。「あいつらが感じてくれればいいかなと。その1回でどうなるのかを感じて、ゲームでああなっちゃったよねって次に活かしてくれればいい」。こうした流れの中で週末には静岡学園戦を控え、次週には広島との上位直接対決が待っている。チームが日々進化し、選手もまた日進月歩の成長を見せるなか、彼らを見守るスタッフ陣が揺らがないのは頼もしい限り。勝つために戦い、勝つためだけにサッカーをやらない。育てながら勝つ、勝つ中でも育つ。大一番で再認識できたのは自らの現在地だけでなく、名古屋ユースが歩むべき道とその先に求めるものだった。だからこそ、彼らは次も必勝を期す。