【クラブニュース】みよしFCの選手たちに武田洋平が気さくな“講話”を披露。中学生たちに伝えたかった大事なこととは。
昨日27日、グランパスみよしFCのU-13~U15の選手たち約60名に対し、武田洋平が自らの経験を伝える“講話”を行なった。自身も初というこうした形でのコミュニケーションはみよしFCの浅野浩孝コーチが司会となって進行はしたものの、その大部分は武田自身が自らの経験を通して感じたこと、中学生や高校生年代で感じていたことなどを話すのがメインとあって、我々報道陣にとってもなかなかに興味深い内容となった。とはいえ武田の性格である、緊張混じりの中学生たちの想定外の反応の薄さに時折困ったような表情を見せつつも、関西弁で少し笑いを取りに行くようなところもあり、後半になってくるにつれて笑いながら講話を聴く選手たちも増えた印象。リラックスした選手たちからは質疑応答のコーナーで多くの質問が飛び、終わってみれば予定時間を30分も超過するほどの盛り上がりになった。
武田の話は面白かった。ツカミとして「そんなスーパースターではない、あまり知られてないJリーガーの話を今日はしてやろうと思ってるので。『こいつ何言ってんねん』って思う時はあるかもしれへんけど、それはもうキャスティングした人に言ってください」とかましたが、まだまだ“客席”は温まっていない。「思った以上に反応が薄くて困った」と終了後に話したところだったが、中学生たちからすればまだまだ緊張の最中である。しかし彼らとてプロサッカー選手を夢見る子どもたち、武田の経験談を聞けば聞くほど、その貴重な体験と考え方に引き込まれていったように見えた。
GKを始めた理由など、そのバックグラウンドの話から始まった中では、小学校6年生で172cm、中学校1年生で180cmあったという身長の話でまずは選手たちがざわめき、熊本に引っ越したところで偶然に巡り合うGKコーチのおかげで地域トレセンの前にU-15日本代表になってしまった話題でまたひとざわめき。中学生になって初めてちゃんとしたGKトレーニングを経験した時のことを活き活きと話す武田の姿には、18年ものキャリアを積み重ねた今が重なる気がした。「自分がうまくなっていくのが楽しかった」という彼の原体験こそが、名古屋のGKチームを支える実力派の芯の部分なのだと思った。
中学生年代の自分を振り返り「同い年で俺より上手いやつおらんわ」という“勝手な自信”を持っていた反面、だからこそ欠けていた、できたことがあったという武田は選手たちに「悲しいお報せやけど」と一言。「それは何かって言うと、高校でもそうやったんですけど、練習量っていうのはね。これみんな嫌かもしれへんけど、質もそうやけど、量は絶対に必要になってくるのよね、練習量ってのは。もうこれはね、やらんとダメです。時間を。量は絶対に」という言葉には重みがあり、選手たちの空気が変わった。
そこから出身である大津高サッカー部の話になると、さらに武田の講話はヒートアップ。「俺はストイックにやってたわけじゃないから偉そうに言えないんだけど」と前置いた上で、熱っぽく語った。
「スケジュールはみんな組めると思うの。朝練やって、とか。でも実際やってみようと思ったら、もう絶対できへん。なかなか現実厳しい。宿題もせなあかんし、勉強もあるから。だけどそれをどこまでできるか。やってる子もいるっていうのは事実で、それはめちゃくちゃ好きやからやっちゃう。今、みんなは中学生で、高校、大学、社会人、プロってあるけど、ピラミッド上にこう(狭く)なっていくわけ。そこにすっごい時間の使い方とか、練習量確保するとか、質。それがどんどん、どんどん厳しくなっていく。だからみんな学んでいかないといけない。俺が伝えたいのは、まず行動することっていうのはすごい大事で、計画を立てて、行動ができるかどうかってのはまず1つ。あとは行動するために何が必要かっていうと、それが好きかどうか。たとえば朝起きて学校に行く前にボール蹴ろうと思って、でもまだ眠い。やっぱ寝よってなる。睡魔に勝てない。それなんで勝てないかっていうと、目標がぼんやりしすぎてるから。朝起きてサッカーすると上手くなる、ボール蹴った、上手くなる、というのがもうデカければデカいほど…、睡魔よりデカくするわけ。想像して、朝この時間ボール触ってタッチ上手くなったらあいつに勝てる、試合に出られる、試合に出て勝てる、と想像してたらさ、楽しいやん。それを自分の中でどれだけでかくできるか。これはね、俺はやってなかったんだけど、大人になってそういうことを知った。だからちょっとね、みんなにはやってほしい」
途中、たとえ話がどこかに行きかけて中学生たちの頭上に「?」が飛んだ時もあったが、この話はとても良かった。とにかく武田は「自分がやっとけばよかった」ということを中学生に伝えようとしていたところがあり、学校生活や日常生活についても「普段あまり言われないようなことを伝えたいから」と、あの独特な口調でコミュニケーション論に話を移す。
「コミュニケーション能力。これね、本当に俺が言うのもなんやけどね、大事です。朝の挨拶しなさいとか、当たり前やねんけど、挨拶をいい感じでしましょうって話でね。『こんにちは!』って言う時にも、先輩や友達だけでなく、監督や学校の先生とかにも“いい顔”をする。『先生、こんにちは!』。これだけでも違うから。みんなピンときてないかもしれないけど、先生が『お前ちゃんと宿題やってきたか?』『やってきました!』みたいな、これだけで、こんなんだけでいいからやっていくことが大事になってくる。大きくなればなっていくほど、みんな俺が言ってた意味はそういうことか~、ってなるから。最悪、『こんにちは』とか言わんでも、『ハハッ(と笑うだけ)』。こんなんでもいい。めちゃくちゃ大事。これで『なんか喋りやすいな、この子』みたいになる。これからみんなは親元を離れていったりとかする子も多いと思うけど、そこで喋るのが苦手とかでも、やってみる。それはもう俺もそうやった。友達の作り方とかさ、そういうのすごく大事になってくる。知らんとこに飛び込んでいくってなると、ブスっとした表情してたらさ、『何考えてんのこいつ』とかなる。喋るのが苦手でも、さっきみたいにちょっとニコニコしてるだけでも仲間に入れてくれたりとかするから。みんなに“いい顔”しとけば喋りかけてくれて、気にかけてくれる状況とかになってくんねん。みんなわかる? 今はわからんかもしれないけど、敵を作らないってこと。自然と周りには味方、味方、味方、って仲間が増えてくる。この人とは喋らない、とかじゃなく、自分から話しかけに行く。それが無理でも、話しかけられたらちゃんと話す。逃げない。それって対人の話で、みんなも今はまあまあ悩み事とかあると思うねんけど、だいたいの悩み事っていうのは対人のものだから。誰かと喧嘩したとか、誰かとなんかちょっと今は気まずい、先生に怒られたとか、そんなの。それを逃げない。いいんだよ。喧嘩したり失敗しても、こう言ったらアカンのか、とか、こう言ったらこう思われんねや、とか。そうやって喋れば喋るほど経験値が上がっていくから、そうやってコミュニケーションをいっぱい取っていってください。もう今から。これは大事。サッカーのことなんかもうナンボでもいろいろな情報入ってくるやろ? だったらいっぱい練習したらいいねん」
だいぶ長くなってしまったが、武田の長台詞なんて珍しくてつい…。これでもところどころ端折っているのだから、講話に対する彼の熱意の大きさがうかがい知れるというもの。時間の使い方についての話もかなり深いので、何とかお付き合いいただきたい。
「僕が行ってた高校でよく言われてたのが、『24時間をデザインしろ』ってこと。要するに時間の使い方やね。部活は朝練があって、大体6時半から朝練が始まって、放課後に即練習やって、でも2時間ぐらい。そこから余った時間があった。なぜかっていうと、監督の意図としてはその余った時間で何ができるかっていうことだった。生徒たちが時間をどう使うか。大津高校のサッカー部ってね、1年の時は勉強できない。サッカーと雑用もあってちょっと難しい。でも2年、3年となっていくにつれて時間の使い方ができるようになってくるから、勉強の方も成績が上がっていくのよ、みんな。俺も1年の時より3年の時の方が勉強できるようになってた。ここにいる全員がプロを目指してるわけじゃないかもしれへんからこそ、全員に言えることは、時間の使い方がうまくなると勉強とか自分が学ぼうとしてること、これから大学生になって社会に出てっていう時にでも、これが通用する。この習慣をつけといたら便利。俺もダラダラしちゃってる時間とかはやっぱりあって、それもあっていいと思うねんけど、それに気付けるかどうか。これはプロになった時のことだけど、高校では学校に行ってサッカーして、帰ってきてご飯食べたら、夜の9時とか10時になってた。それがプロになると急に変わって、朝10時から1時間半やって終わりです、という世界。昼の12時にもう終わって何にもない。急にその生活になったから、ダラダラしたね、俺は。ずっと夏休みやん! みたいな。午後から全部が自分次第。これが難しい。だから、そこで何ができるかっていう話になる」
いやいや深い。他にも「長いことプロでやらせてもらってて思うことがあって。誰かと比べたらダメ。でもめっちゃ難しいよ。人と比べるって無意識にみんな絶対やってるから。全然比べなくていい。自分は自分のリズムでやっていけば絶対大丈夫だから」とか、自分のJデビューが5年目だったことを引き合いに出し、「俺、U-20ワールドカップとか出てるんだけど、エスパルスの練習の方が緊張した」とか、長くプレーできている理由を聞かれて「わかりません」とか。最後の質疑応答にはGKの選手たちからの質問が飛び交い、一つひとつにきっちり答えていたのはやはり先輩GKとしての真面目な気持ちの表れか。講話、質疑応答、記念撮影、サイン会と終えた頃には予定時間を大幅にオーバーしていたが、嫌な顔ひとつせずに対応していた武田には感服した。講話の最中、ずっとペンを走らせている選手もおり、きっとこの試みは実のあるものとなるはず。今後のみよしFCの選手たちの成長とともに、武田の残るシーズンの立ち居振る舞い、もちろんプレーにも注目していきたい。
□NEXT PAGE <写真 講話の様子>