赤鯱新報

【赤鯱短信】課題と反省の55分間。鈴木陽人に刻まれた、次なる成長へつながる厳しい経験。

厳しい現実を突きつけられた55分間だった。高校3年生の昨季に既にルヴァンカップでこのピッチには立っており、今季のルヴァンカップで既にプロとしてのデビュー戦も済ませていたが、名古屋のトップチームの選手として豊田スタジアムに立つのは12日に行われた天皇杯が最初のこと。典型的なジャイアントキリングを決められた試合のスタメンとしては悔しい想いしか残らなくとも、鈴木陽人にとってはこれもまた一つの節目となる戦いではあった。限られた出場機会に相手は地域リーグの都道府県代表とあらば、まずは爪痕を、まずは個人としてのインパクトをと願った実戦の中で、生え抜きを待っていたのは“積年の課題”だったとは因果なものだ。

時を遡って1月の沖縄でのキャンプ中、鈴木はトップチームでのメインポジションになるウイングバックについて、こう語っている。「自分の武器であるドリブルをどう出すかというところでは、左のセンターバックから受けること、センターバックに自分を見させることができていない。右利きが多くて展開が右に行きがちなところをどう左に持ってくるのかも、ユースの頃からの課題」。翻ってJAPANサッカーカレッジとの試合中における駆け引きはまさにこの部分が問題にも打開策にもなり得る駆け引きの軸で、常に2枚か3枚の相手DFを相手にチャンスメイクを強いられる中では独力突破では限界があった。場合によっては縦突破からのクロスも上げられていた鈴木だが、やはり連係で少しでも優位を回復したかったというのは本音。そのためのヒントは沖縄で拾っていたはずが、上手くいくとは限らないのがサッカーの難しいところである。

「相手が引いてくる中で、自分のところに相手のサイドハーフの選手が来ることが多くて。縦にかわそうとしても、サイドバックの選手もいるという中で苦戦しました。自分がサイドハーフに仕掛けるのはやっぱりもったいないので、瑛くんがサイドハーフに少し持って寄っていって、相手のサイドハーフを吊り出したところで自分にパスを入れて、サイドバックと自分の1対1に持っていきたかったんですけど、相手のサイドハーフも我慢強く自分のところについてきたり、内側を閉めたりしてきました。そうなった時の打開策というのも試合中に見つけられなかったので、瑛くんや椎くんとはもっとコミュニケーションが取れた部分でもありますし、また練習グラウンドに帰ってからでもコミュニケーションを取って、ここの打開策は見つけておきたいと思います」

結果が結果だけに報道陣からは時に厳しい質問も飛ぶ。答えにくいとまではいかないまでも、たとえば失点の発端になったサイドの対応には鈴木も関わっており、事実確認だけでも責められているような気分になってもおかしくはない。もちろんそれはプロとしての仕事、義務の一環ではあるが、だからといって平然としていられるほど人間は強くもなかったりする。だが高卒間もない鈴木はしっかりと相手の目を見つめ、時折状況を思い出すように額のやや前方上に視線をやりながら、きっぱりと自分の言葉で真摯に答えていく。U-12の頃にインタビューをした時、とてもしっかりと話す子だと思ったのを改めて思い出す。サイドアタッカーは1対1から逃げはしない。しばらく見ない間に身体は少し締まった上で大きくなっているように見え、日々の努力を見た目からも感じた。プロとしての意識の高まりは、この敗戦における反省点も明確に、彼の次の一歩を指し示す。

「自分はドリブルが得意ですけど、ドリブルだけじゃなく3人目で入っていく動きだったり、自分が味方にアイデアを流してやることだったりも大切だと思います。ただ自分が持っているアイデアを出すだけじゃなく、自分のアイデアを味方に渡すことも大切だなというのは、今日の試合後の分析として自分で感じたところでした。そこはまた成長できるところかなと思うので、たとえ縦、縦で相手のサイドハーフとサイドバックが来たとしても、今日なら謙くんとの関係でうまくできたかなという部分もあるので、そこはコミュニケーションですし、自分が点とかも取れなかったのは実力だと思うので、そこはしっかり受け止めて、練習から積み上げていくしかないと思います」

今季は過密日程のために練習を見る機会が少なく、冒頭以外では練習後の風景を少しばかり眺めることができるぐらい。必然、最近目にしているのはアップメニューと居残り練習の一部で、そこにはいつも鈴木の姿もあった。取り組んでいるのはやはりクロスの部分と、ドリブルからのシュートのバリエーション。吉村圭司コーチと共にいろいろなドリブルシュートの形を試し、千載一遇の好機を逃さぬ鍛錬を重ねてきた。残念ながらJSC戦では披露の機会に恵まれなかったが、実戦だからこそ得られる感覚に触れられたのは大きい。鈴木がシュートを狙っていないはずがなく、だからこそシュートがなかったことには理由がある。そうできなかったこと、なぜできなかったのかの原因を探っていくことは、彼にとって最高の教養へと変わっていく。

「今日はちょっと距離的にもサイドに開くことが多くて、タッチラインギリギリで受けることが多かったので、シュートの選択肢は難しかったです。でも、謙くんとポジションを変えて流動的にやった時に自分が受けたなら、もう少しシュートの意識も持ちながら、手前の選択に逆算してできたのかなとも思います。それに遠いところからでもシュートを狙って脅威になれるようなプレーもしたいなとは思います。クロスもどんどん狙っていこうということでカットインをするところもありましたけど、あんまり効果的じゃなかったかなとは自分で感じていますね。より効果的にするためにはもっと深い位置で仕掛けてからカットインすることで、ミドルサードでカットインしてもあまり相手は脅威に感じないと思います。そこは反省点ですし、やっぱり縦に行ってもサイドバックがいる、そこを試合中に改善できなくてのカットインという選択になっていたので、カットインからは横パス、クサビのパスとなってしまった。まずは縦に行かないと自分の武器も発揮できないと思ったので、ドリブルももっと磨いていきたいですね」

今季は練習試合の数も本当に少なく、ゆえにこういった機会は選手にとっても監督以下スタッフにおいても貴重で重要な判断の場だった。明らかに不出来の前半から後半にかけてはスタメンのままで戦うと決めた長谷川健太監督の頭の中には、良くないとはいえ0-0のスコアで、前半の終盤には少しずつ道が見え始めていたこともあったに違いない。結果として6分で失点してしまったことが大方のプランを崩してしまったところがあり、膠着状態が続くのであれば、4枚同時交代もなく、交代のタイミング自体ももっと遅かったはず。これも残念なことに、鈴木もおそらく他の選手たちも、ハードワークを続ける相手のペースダウンを待つ心境はあったに違いなかった。それは失点してなお持ち続けていた冷静な感覚でもあり、55分で告げられた交代の指示に、鈴木は少なくない落胆を言葉の端に滲ませた。

「まだやれる……、正直な感想としては、まだやれるのになって思いました。時間が経つにつれて相手もオープンになってくると思うので、そこからが自分の見せ場かなって思ってたんですけど、交代はそれより早かったので。でも、そこはまだ自分が監督の信頼を勝ち得ていないからだと思うので、ここからもっと監督の信頼を勝ち獲れるような練習の取り組み方をしたいと思います。やってきた練習の成果は出せた部分もあって、それは仕掛けてクロスの部分だったりにありましたし、そういう面ではやってきたことは間違ってないなって思うんです。ただ、相手がふたり来た中でも打開すること、チームがより勝利に近づけるような決定的なプレーをもっとできるようにならないと。フィジカル面もそうですし、もっと意識的にやっていかなきゃいけないなって思います」

決定的なプレーが鈴木陽人の真骨頂である。相手をぶち抜き、シュートを振り抜き、結果をもってチームに貢献する。この日できなかったことは、次にできるようになればいいのが若者の特権だ。胸を張り、凛として話すその姿に、次に公式戦のピッチでそのプレーを見る機会がまた楽しみにはなった。

reported by 今井雄一朗

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ