赤鯱新報

【名古屋vsJSC】レビュー:飲み込まれた“ジャイキリ”の文脈。天皇杯初戦敗退はこの上ない完敗の内容とともに。

■天皇杯 JFA 第104回全日本サッカー選手権大会 2回戦
6月12日(水)名古屋 0-1 JAPANサッカーカレッジ(18:30KICK OFF/豊田ス/3,178人)
得点者:51′ 上元直樹(JSC)
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ぐうの音も出ない完敗だった。異論を挟む余地はない。試合終盤に押し気味の展開はつくったが、それも押し切れなかったのだから空砲に過ぎない。言い訳を探せばいくらでもあるが、それも突き詰めていけば相手の準備にしてやられただけ。1-0の最少点差のゲームは接戦ではなく、ひたすらにJ1上位の不甲斐なさが募った敗戦だ。もっとやれることはあった、だが、できない理由もあった。そのパワーバランスを崩せなかった“格上”の方が、今季の天皇杯の戦いを初戦で終えることになった。

三國ケネディエブスがDFリーダーに任命されたこの日の布陣は、彼と武田洋平、椎橋慧也、そして復帰戦となった酒井宣福らが軸として引っ張る構造にはなっていたのだと思う。3バックの左右は行德瑛と井上詩音で、この日は可変はあまりせず、ベーシックな3-4-3でJAPANサッカーカレッジ(JSC)を迎え撃った。ウイングバックに久保藤次郎と鈴木陽人という配置は攻撃に比重がかけられたシステムであることを示し、シャドーにドリブラータイプが並べられたということは、守ってくることが容易に想像のつく相手を、それでも突破してこいという指揮官の期待にも見えた。U-18の森壮一朗はメンバー入りも逃したが、試合前のアップのポゼッションゲームには加わり試合の雰囲気は味わわせてもらった模様。スタンドには森下龍矢の姿もあり、いろいろな目が普段とはやや違った印象のピッチを見つめていた。

試合後にあれこれ考えていて、なるほどこれは厳しい試合になると直感した。JSCはベーシックな4-4-2の布陣を敷いてきたが、専守防衛の構えで試合に入り、4バックと4MFがペナルティエリアの幅にまとまる8枚のブロックを形成。その上で名古屋のウイングバックに対しては必ずサイドハーフが最初に対応し、サイドバックやボランチと数的優位を保って守りにあたった。コンパクトな布陣は基本的には“ドン引き”ではあったものの、渡辺亮太、上元直樹のツートップが名古屋の3バックとボランチの間をうまく埋め、クリアやロングボールを渡辺がことごとく競り勝つことでリズムも相手に渡さず。8枚ブロックが左右にスライドする部分を除けば、一番やられたくないエリアに鍵をかけるやり方、そのエリアがペナルティエリアだという設定の仕方、まるでかつての名古屋の指揮官を思わせるところもある戦い方だった。

「準備してきたことはいろいろあったけど、引かれた相手に対してどう崩すかまでは、イメージの共有が足りなかった」。最前線でチャンスを待ち、起点になろうと身体を張り続けた酒井は悔やむ。時折送られてくるフィードに競り勝っても、ボールの落下点にいるのは相手の選手であることが多く、クロスを待っていても前述の状況から質を問う以前に数が上がってこない。「アバウトでもいいからコーナーキック取りに行ったりというのはあってもよかった」という振り返りは頷けるもので、ふさがれているから下げる、目の前には堅牢なブロックがあるからパスが外回しになる、パスを差し込もうにもバイタルエリアに隙間はなく、そもそも味方の選手が少ない。前半の途中からは長谷川健太監督の指示や武田や行德たち後方の選手からの声掛けで全体的に前にコンパクトにしたことで状況がやや改善されたが、そうなればなるほど8枚のブロックが緊密にもなり、クリアを渡辺が収めることで反撃の糸口さえJSCは生み出せた。時に三國にさえ競り勝つ長身FWは実に厄介な存在で、上元も近い仕事を勤勉にこなし、守備優先でプレーしていた両サイドハーフの本田修也と大野秀和も背後へのランニングを惜しまず攻撃の芽を丹念に育てた。名古屋が前に人をかけきれなかったのはこのカウンターの怖さがあったことは間違いなく、少なくとも渡辺を無力化できていれば、もっと連続して押し込み、ブロックをこじ開ける展開にはできていただろう。

攻めあぐねる名古屋には不運も襲った。後半開始からはさらに前に人をかけていく意思を見せ、試合を動かしにかかったが、開始3分の相手のロングスローからの攻撃の中で三國が交錯から治療を受け、ピッチの外へ。プレーは三國のクリアで生まれたJSCのコーナーキックから再開し、キッカーの隣りで三國が主審の許可を得て戻ろうとしている状況が何とももどかしかった。大野泰成のコーナーキックは一度弾かれるも渡辺のシュートにつながり、シュートブロックの後に名古屋の左サイドへ。この時点でも三國のピッチ復帰は認められることなく、こぼれ球を追った鈴木と久保の隙を突いてボールを奪い返した篠田翔太が上げたクロスが、ファーサイドに抜けて上元に決められた。三國がいれば、と悔やまざるを得ない状況と、それでも守れたはずだという無念とが、大喜びするJSCの選手とサポーターたちとのコントラストを描く。発端となったのが分析にあったロングスロー、警戒していた渡辺にもリズムよくプレーされ、もうひとりのエースに決定力を見せつけられた。勇気をもって戦い続けた相手と、歯車が嚙み合わないまま焦点のぼやけた戦いを続けた自分たち。この対称こそが最大の敗因として、その後の試合展開にも大きく影響していくことになる。

長谷川監督は失点後すぐさま山岸祐也、森島司、中山克広、内田宅哉の一挙4枚替えを指示し、試合をひっくり返しにかかった。内田はボランチに入り、吉田温紀が3バック右へと下がる。全体が高い位置をとりやすい一方で展開が詰まりがちだった中で、この交代は内田が背後に抜け、吉田がさらに高い位置からボックスにパスを差し込めるようになったことで確かな効果が認められたが、背後のスペースが消えるために中山の持ち味は出しにくくもなった。片方に寄せてサイドチェンジという攻撃は前半からも見せていたが、この交代後の布陣では吉田がそのボールを蹴ることになり、久保には1対1の場面が増えるも、中山で勝負する場面は逆に減る。リードしたことで専守防衛に加速がかかったJSCだったが、渡辺のポストプレーと空中戦が依然として威力を保ち続け、カウンターの怖さを失わなかったのも大きかった。名古屋の最終ラインはそのストレスを抱えながらも攻撃にかなりのリソースを割かねばならず、それは間違いなくJSCに勇気を与えた。

70分に久保に代えてパトリックを入れてからは逆に名古屋の前線にエアバトルのアドバンテージが生まれ、背番号10のヘッドの落としから決定機は何度もできた。パトリック自身の決定機もあれば、ペナルティエリア内にボールが落とされる場面も一度や二度では利かないほど。そこに山岸や森島が飛び込む形も多かったが、少しのズレでシュートに至らないこともまた多かったのがまた残念だ。JSCがパトリックや山岸のマークに渡辺を下げて空中戦勝率を引き戻すなど、遮二無二に虎の子の1点を守りに行ったことで終盤はほぼJSCのゴール前での攻防に時間が過ぎていったが、あと一歩がやはり足らない。残り10分、アディショナルタイム合わせて20分近くは名古屋も明確にパワープレーに打って出たが、それでもJSCの高い壁と粘り強いクリアの前に打ち崩すことはできなかった。試合開始から終了まで、噛み合わない状態を解消できなかった名古屋はついに敗戦の笛を聞き、その後は当然のごとく客席からのブーイングを受けた。ひとつの弁解の余地もない完敗で、2024年の天皇杯は開幕と同時に幕を下ろした。

守り切られたが、守り通されたわけではなく、持ち味を消されたところよりも出す術を見つけられなかったことが問題だった。その結果、JSCには気持ちよく守られ、気持ちよく攻められ、先制点を唯一無二のアドバンテージに変えられた。守れていても、得点が取れなければ格上相手には恐怖心も募っていくものだが、守れている上に反撃ができている、しかも点まで取れてしまえばハードワークのやりがいも増す。名古屋が主力4人を同時投入して圧力をかけてきても、しのげていれば気持ちは保持できる。前半を見ていてJSCの懸念としては息切れがあったが、結果的に一番の重労働だったサイドハーフ2枚を代えただけで済み、DFラインは渡辺の加勢も得て無失点を達成した。5人、脳震盪の疑いで内田がハ チャンレに代わったので6人の交代を注ぎ込んで勝ちに行った名古屋とは、これもまた対照的だ。交代策で何かを変えなければいけなかったチームと、変えなくても好試合をつくれていたチーム。それでも個の力で押し切ってしまったり、相手の疲れに乗じて試合を別物にしてしまったりというのも勝負によくあることなのだが、今回はこの上ない“ジャイアントキリング”の文脈に、名古屋はしっかりと飲み込まれてしまった。

89分にはフィフティーのボールをめぐって三國と内田が交錯し、鼻付近を強打した内田が脳震盪の疑いで退場。内田は症状が症状だけに病院へと直行し、出血もあったため、鼻骨などの負傷も心配なところ。懸命なプレーの結果だけに不運としか言いようがないのだが、泣きっ面に蜂とはまさにこのことである。酒井と吉田とターレスが復帰し、行德や鈴木に試合経験を積ませられたのは良かった部分だが、敗戦から学ぶ以前にあまりにナイーブな試合でもあった。後悔は先に立たず、「ああしておけばよかった」は負け試合においては禁句だ。個人は次への糧として猛省し、チームは切り替え残る“二冠”へ突き進む。結果がこうなってしまった以上、引きずらないことが今は最も大事なことである。

reported by 今井雄一朗

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