赤鯱新報

【名古屋vs仙台】レビュー:接戦を支えた守護神の自信と仲間からの信頼。苦戦も勝利への執念を失わず、ラウンド16への道は切り拓かれた。

スコアレスで折り返した後半は両監督の判断が矢継ぎ早に続いた。ハーフタイムの時点で長谷川健太監督は重廣と山田を諦め、マテウスと森下を投入。右ウイングバックの内田宅哉をボランチにずらし、そのまま右に森下を配置した。この日の名古屋は左に和泉竜司を固定して起用したが、理由は後半開始からの攻勢に一つある気もする。“後出し”も含めて森下を控えとし、和泉と内田で両翼を担うとした場合、「自分の前が空くことは試合前にも言われていた」(和泉)という点でより攻撃の起点となれる和泉のカットインプレーを重視したのではないか。現に前半あれだけ攻めあぐねた仙台の守備を、後半は右で奪って左に展開していくことで和泉がほぼフリーでペナルティエリアへの仕掛けをできる状況を何度も作り出した。「あとはそこの精度だったり、もう少しシュートまで行きたかったけど」と反省を忘れない和泉だったが、想定した仙台と実際の仙台をすり合わせた結果、開始10分で3度の崩しの場面ができたことは良い傾向だったはずだ。

後半は熱さや湿度で地元とは大きく違う仙台の選手たちがややパワーダウンした結果、名古屋が大きく推す展開にもなった。足がつる選手が続出した仙台はそこにも合わせて交代を連発。名古屋も切り札中の切り札であるユンカーを10分過ぎで起用し、河面旺成を左ウイングバックとして入れてチームをリフレッシュさせると、73分には森下を走らせユンカーが折り返しに詰める決定機を生んだがここはしっかりシュートがヒットせず。74分の交代で3バックに変更した仙台はさらに守りへの意識を高め、以降は再び膠着もした。90分には観客席に急病人が出たことで試合は5分間中断されたが、無事が確認されて試合は再開、しかし両チームともにやはり決め手を欠いて、15分2本勝負の延長戦へと試合はなだれ込んでいくのだった。

延長戦になって試合は動いたが、それが交代出場の選手によるものだったのは名古屋にとっては明るい材料か。延長前半開始4分で足の疲労度を訴えていた内田に代えて長澤和輝を入れると、その5分後に長澤のフィードに抜け出したユンカーがDFと入れ替わり、追いすがる者も冷静に視野に入れてマテウスへのラストパスを通す。誰もがそのままGKの脇を通すかループなどでシュートに行くものと思われた中で、より高い確率を選んだ判断はさすがとしか言いようがない。ちなみにその直後の攻撃でマテウスが何とも気合の入った鋭いクロスをユンカーに送ったのは、「さっきのお礼!」と言っているようで何とも微笑ましかった。延長前半12分にはマテウスのコーナーキックを河面がニアフリックし、ユンカーが詰める決定機もあったが、ここはわずかにタイミングが合わず。延長戦に入って名古屋は人の配置をマイナーチェンジし、河面を3バックに、野上をウイングバックへとスライドしていたが、この配置転換によって河面が動きやすさを取り戻し、かつ右で野上と藤井陽也が縦関係になったことにより、高さを使った攻撃も可能になっていたのは見逃せない。右で作って左で仕掛ける攻撃は、この頃には左で作って右で高さ含めた起点を築き、ボックス内へと侵入する型へと変わっていた。

だが、仙台も粘った。延長前半も終了間際に右のオナイウが上げたクロスに交代出場のホ ヨンジュンと菅原龍之助が身体ごと飛び込んでゴールイン。後半は名古屋が一方的に攻め込む15分となったが、4度の決定機を仕留められず。その流れでPK戦突入は何やら冷や汗が出る想いもしたが、チームの面々は、とりわけ守護神はこの“決戦”に人知れず勝機を見ていたから頼もしかった。「今までPK戦では一度しか負けたことがない」。その事実がランゲラックをさらに冷静にさせ、コンセントレーションも最高潮へと導いた。延長戦に入った際の稲垣の心境としての「PK戦になってもミッチがいる」という絶大なる信頼感は、ランゲラック自身においても強烈な自負と自信に支えられ、大きな結果を残した。

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